コネタマ参加中: 線香花火のような、はかなく切ない思い出募集
彼女は友人たちと談笑していた。
そこへ席を外していたIが戻ってきて、彼女に
「ねぇ、夏祭りのグループ分け、さっきくじ引きで決まったそうだけど、
“彼”のところと一緒なんだって・・・」
――悪戯な確率。意地悪な偶然。
彼女はしばしの沈黙のあとで、無理な笑顔を作った。
「・・・うん、大丈夫。
もうあれからだいぶ経ってるし、何とかやり過ごすから・・・」
Iも
「私も気を付けるようにはするけど・・・」
事情を知らない他の友人たちは
「“彼”と何かあったの?」
半年前、彼女と彼は2人で遊びに行く仲だった。
彼女は単なる友人だと思っていた。
でも、周囲の誰もが『彼が彼女を見つめる視線は違う・・・』と。
それは彼女自身もどこか心の片隅で感じていないわけではなかった。
といっても、彼本人の口から
『彼女をどう思っているのか』は直接聞いたことがなかったから、
それを否定する彼女自身のほうがずっと大きかった。
「来年の夏、滞在期間が終わったら、連れて帰りたい。
ずっと一緒にいたい」
突然の言葉に、驚きと戸惑いを隠せない彼女。
そんな彼女を支配するようにじっと見つめるその目はすでに、
決して彼女に「No」とは言わせてはくれなかった。
心の中で「No」を叫んでいても、彼は聞こうとはしなかった・・・。
現実問題を考えて・・・そんな打算で「No」という答えを思ったわけではなかった。
単に彼には、友情以上の感情が持てなかった。
いくら抱きしめられても、そのたびに
彼女の心は・・・
――I'm not your sweet
doll...
空虚な温度差を感じるだけ。
・・・彼女は限界だった。
これ以上、自分をごまかしてまで、
彼の言うままに、
なし崩しに引きずられていく関係を続けるのは、
お互いのためにならない。
次に遊びに誘われたときに、彼女はこう返事した。
「もう2人きりでは会えない」
「どうして?」
彼女は彼に気持ちがないことを伝えた。
けれども、『“お人形さん”のささやかな反乱』とばかりに、
聞く耳を持たない彼。
お互いの主張を繰り返すまま、時間だけが過ぎていく・・・。
――仕方がない・・・。
彼女は出来れば使いたくなかった言葉を口にした。
「あなたには感謝してる。
でも他に好きな人・・・彼氏出来たから・・・ごめんなさい」
彼氏が出来たというのは嘘だった。
ここまで言わないと、もはや納得してもらえないと思った。
「・・・分かった」
ようやく折れてくれた彼の言葉。
でも彼女はその表情を決して見ることが出来なかった。
そして、黙ってその場を立ち去った。
それからは彼を避けるようにした。
彼がいそうなエリアには立ち寄らないようにした。
顔を合わせたとき、どうすればいいのか分からなかった。
彼は諦め切れていないのではないか、そんな不安もあった。
そしてどこかに、後ろめたさもあったのかもしれない・・・。
夏祭りの準備期間に入った。
グループ内の彼女の担当係は彼と違っていたために、
全く顔を合わせることはなかった。
予想に反して、平和な日々。
係のメンバーの皆、気が合って仲がよかった。
この時代の最も楽しいキラキラ輝く思い出。
そして夏祭り当日。
同じグループは同じ場所に集まって過ごすことになっていた。
彼女はIたちと一緒に、
彼の視界に入らない場所――後ろのほうの隅っこにいた。
「そんなところにいないで、こっちにおいでよ」
すっかり仲よくなった同じ係のメンバーたちが手招きをする。
その横には偶然・・・彼。
表情を強張らせる彼女をかばうように
「せっかくだけど、私たちはちょっとここにいるね」
とI。
そんな折、彼女はひとりで探し物に行くことになってしまった。
ふと感じた視線。
胸騒ぎがして、振り返って見上げた。
彼がいつになく真剣な表情で、じっと彼女を直視しながら、
声を掛けられる距離まで近付いてきていた。
・・・つけられていた。
周囲には誰もいない。
――怖い・・・!
無意識に、彼女はおそらく見えなくなるであろう場所まで走って逃げた。
木の陰に隠れ、追ってこないのを確認して、その場に崩折れた・・・。
結局、彼が彼女に
何を言いたかったのか、
何をしたかったのか・・・分からない。
ただあの真剣な表情から、
帰郷する前に、彼自身の気持ちの上で、
彼女に対する、何らかの『最後の“けじめ”』を
はっきりとつけたかったのだけは分かった。
でも・・・彼女は逃げてしまった。
と同時に、彼女が突きつけていった最終的な答えは、
『彼の中の宙に浮いた思いを、
決して解消させることなく、残させたまま、帰郷させる』
というものだった。
そしてこれは、今までの何よりも、
彼への最も残酷な回答ではなかったのだろうか。
そこまでしてよかったのだろうか・・・。
あの夏祭りの余韻も冷めてきた、ある蒸し暑い日、
彼女が自宅で新聞を開くと、
彼が帰郷する記事が出ていた。
「この経験を生かして、またいつかここに戻ってきたいです」
そのコメントを読んだとき、
なぜか不意に彼女はこう思った。
「彼と私が出会うことは2度とないだろう。
というより、彼がここに戻ってくること自体ないだろう・・・」
そして新聞のページを1枚めくると、その記事の上に重ねた。